坂辺周一先生の作品のウラノルマ。
真犯人がうやむやなまま
そして被害女性のキャリアにそぐわぬ夜の顔が
センセーショナルな衝撃を与えた東電OL殺人事件を
エロサスペンスの鬼才が独自の視点で描いた本作。
誰もが羨む家柄とキャリアを持ちながら
自分の体をお金に変える女性の心の闇とは?
彼女が本当に求めていたのはなんだったのか――・・・?
ネタバレもありますので先に無料で試し読みをしたい方はこちら。
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ウラノルマのあらすじは?
大手企業グーバルに勤務するいわゆるキャリアOLの国枝あおい。
女という武器を使わず自分の実力だけで
出世してきた彼女の評価は高く今ではチーフとして
部下を抱えるまでに認められていました。
しかし定時で退社したあとの彼女は全く別の顔――。
駅のトイレできわどい服装に着替えたら
夜ごとに貴賤を問わない男たちを相手にお金を稼ぐのです。
1晩に3人の男を客にとる彼女はお金欲しさというよりは
ノルマをこなすように自分を売り歩くのでした。
そんな生活を昼の自分の関係者や家族には
もちろん知られるわけにはいきません。
ウラノルマ
メイクやウィッグで変装して昼の自分と夜の自分を
完璧に切り離していたあおいでしたが
ある日、常連客である外国人の男に正体がバレてしまいます。
あおいのしていることを会社の人間にバラすと脅され
無理やり犯されそうになった彼女は恐怖心のあまりに
この男をビルの屋上から突き落としてしまいます。
その場から逃げ出すあおいでしたが
会社ではいつも通り部下にテキパキと指示を飛ばして
今しがた人を殺めたような雰囲気は微塵も感じさせません。
それでも内心では事件の発覚を恐れていました。
過去には同じような雑居ビルの間から
白骨化した遺体が見つかったこともありました。
今回も時間と共に風化していくはずだと自分に言い聞かせながら
殺してしまった男の行方を捜す人はいないかどうか情報を集めます。
しかし1週間経っても男の死体は見つかることはなかったのです。
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ウラノルマのネタバレとその後の展開は?
不法に滞在している外国人たちが
なんらかのトラブルでいなくなるなんて珍しくないことで
彼を探す人もいないようであおいはホッとしながらも
油断はできないと警戒を続けます。
そんなことがあった後でさえもあおいは
自分の生活のスタイルを変えることがありません。
昼はグーバルのチーフとしてスケベ心をのぞかせる
男たちをいなしながらバリバリ働き
夜はラブホ街に立ち不特定多数の男たちと関係を持つ。
彼女はセックス好きというわけではなく
愛情もなにもないその行為によって自分を痛めつけ
罰しなければならないと考えていました。
幼いころから建築家として成功した父親を
妄信ともいえるほど尊敬してその父親の言いうことに従い
父のように立派な人間になりたいと願って生きてきたあおい。
努力を惜しまずアメリカの有名大を卒業し
グーバルに入社して部下を抱えるほどの立場に立ってもなお
父親には遠く及ばないと考えていました。
父親のようになれない自分を恥じてまたもっとも嫌悪すべき
女の部分を持つ夜の顔を徹底的に虐げることで
昼のキレイな自分を保てるのだと――・・・。
強迫観念にも似た感情に突き動かされて
あおいは今夜も乱暴に犯されるのです。
そんな折、父の危篤の知らせが入ります。
連絡をしてきたのはアメリカに住む父の愛人からで
彼女はなにも知らない母親と
妹を連れて渡米することとなります。
父に愛人がいることしかも腹違いの兄弟までいること
そして癌に冒されていて余命いくばくもないということ――
このすべてを知るのは国枝の家ではあおいだけ。
有能な娘として信頼されていた彼女は
父親からすべてを聞かされていたのです。
本妻でありながらなにも知らなかった母は
突然知らされた事実に激昂してあおいを責めるのですが
あおいはそんな母の姿をみっともなく思います。
取り乱して感情的に振る舞う様は
あおいが軽蔑する女性らしさそのものだったのです。
尊敬してやまない父親を失ってしまい
たった1人になってしまったのだと実感するあおい。
唯一の存在である父がいなければ
母や妹がいても分かり合えないだけで孤独なのです。
まだ父のようにきちんと家族を支えるだけの器なんてないのに――。
そしてこの父の死をきっかけとしてあおいの心は
どんどんチグハグに壊れていってしまいます。
ウラノルマ
時を同じくしてあおいが殺した男の死体が見つかります。
会社では休んでいた間にチームの仕事を横取りされたり
部下から裏切られたり・・・。
昼のあおいの周辺にもどんどん不穏な空気が漂い始めていましたが
それでもあおいは昼と夜を切り離すノルマをこなすのです。
父親のようになれない“ダメな自分”はきちんと罰しないと・・・
そうしなければ“昼のキレイな自分”まで汚れてしまうから。
しかし1人の男の存在が
あおいの今までの価値観を揺るがすことに――。
それは父の葬儀で会った物江という男で
過去には父親の右腕として働きながらも
意見の対立によって会社を出て行った人物。
彼はあおいの不器用さが心配だと言い
なにかにつけて彼女の周りに現れるのです。
父に反した人間として敵対心を持つあおいでしたが
彼の言葉やさりげないアシストに次第に無視できない存在へと。
そのうちに物江から告白されるのですが
動揺のあまりに逃げ出してしまいます。
しかしあおいはうっかり手帳を忘れてきてしまうのです。
夜の売り上げを記録した手帳を――・・・。
それによって物江にすべてを悟られてしまうのですが
彼はあおいの心を知ろうとして諦めません。
あえて遠ざけようとしたあおいも
彼の言葉に打たれて感情を露わにしてしまいます。
お父さまのようにもっとちゃんとした私じゃなきゃいけないから
こうして自分を罰しているのだと――。
それを聞いた物江は涙ながらにあおいを抱きしめます。
「オマエはお父さんなんかにならなくてもいいんだ。
あおいはあおいのままでいいんだ」
ずっと父のようにならなければならないと
自戒してきたあおいにとって予想外の言葉で
物江の腕に心までを抱きしめられたような気がしました。
しかしふと脳裏に浮かぶあの殺した男の姿。
自分のした過ちを思い出してあおいは
物江を振り切って走り出してしまいます。
これまであおいの前に現れた男たちの顔
ずっと蔑んできた女たちの姿、そして父の顔――
最後にはさみしげな物江の顔が現れては消えていきます。
手帳に書かれた物江からのメッセージに気付いたあおいは
やっぱり物江のもとに戻ろうとするのですが――・・・。
声を掛ける外国人の男に無理やり
アパートの空室に連れ込まれてしまうのです。
彼はあおいが売春していることやこの空き部屋を
無断で使っていたことなどを知っている様子。
なんとそれは殺してしまった男ベフナムの兄だったのです。
弟の死を知った彼はあおいのことをずっと探していたようで
あおいの必死の説得も差し出されるお金にも見向きもしません。
首を絞められて薄れていく意識の中で物江の言葉が蘇ります。
『やり直そう・・・あおい。』
ずっと女に生まれたことを引け目に感じて
男と対等になりたいと頑張ってきたあおい。
女であることを否定して否定して――
でも物江と一緒にやり直したいと切に願うのでした。
助けて――・・・。
6日後、あおいはアパートの空き室から遺体で発見されます。
グーバルジャパンのエリートOLの死に過熱していく報道合戦。
物江は歪まされるあおいの姿を横目に
彼女はただ愛されたかっただけなのだろうと思うのです。
愛されかたも知らないままに・・・。
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ウラノルマの感想は?
ウラノルマは1997年に実際に起きた
東電OL殺人事件をモチーフに描かれた作品です。
この事件は東電初の女性幹部でありながら
夜は売春婦として男たちに身を売っていた
被害者という特異な事件でもあったので
マスコミはこぞって被害女性について書き立て
また家族のプライバシーをも侵す行為に
議論が巻き起こりました。
犯人としてネパール人の男が勾留されたものの
裁判では彼の罪を立証できずにのちに無罪となっています。
女性が不特定多数の男と行為に及んでいたことが
殺害の証拠を不確かなものとし結果的に彼女を殺した者の姿を
匿ってしまうこととなってしまったのです。
迷宮入りの事件であることや被害者女性の心の闇など
きっと創作意欲を搔き立てられる要素がたくさんあるのでしょう。
この東電OL殺人事件は多くの作家によって
小説やノンフィクション作品として出版されています。
中でも桐野夏生先生のグロテスクは大きな話題になったこともあり
知っている方も多いかもしれませんね。
何度も推測を交えながら描かれてきた主人公の女性ですが
ウラノルマではただひたすらに純粋で不器用で
有能だからこそ挫折を許せなかった悲しい女性として登場。
ウラノルマ
実際の事件と違うのは最後の最後で彼女の理解者である
物江が現れたというところでしょうか。
もう少し早く2人が分かり合えていれば
事件は防げたかもしれない・・・
という余韻を残す一役を買っている人物ですが
東電OL殺人事件の被害者にはいなかった存在です。
自律神経を病み拒食症によってガリガリに痩せて
見るも無残な姿で亡くなった女性へのせめてもの慰めに――
そんな作者の心遣いのようなものを感じてしまいました。
最期のときに思い起こすことができる人がいることは
きっとあおいにとっては救いになったはず。
東電OL殺人事件の被害者にもそんな人がいたならと――。
読後はなんとなく後味が悪く溜め息が出てしまうような作品ですが
きっとあなたの心になにかを投げかけてくれるでしょう。
ウラノルマを、ぜひ読んでみてくださいね。
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