山本英夫先生の作品であるホムンクルス。
頭蓋骨に穴を開ける手術『トレパネーション』をすれば
第六感が開花すると言うのですが・・・。
人には見えない世界を視ることになった主人公が
ゆっくりと壊れていく様に背筋が寒くなります。
読後に鬱々とすること間違いない本作を
あなたも覗いてみませんか――?
ネタバレもありますので先に無料で試し読みをしたい方はこちら。
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ホムンクルスのあらすじは?
狭い車内で胎児のように体を丸めて指しゃぶりをしながら眠る男。
物語の主人公は一流ホテルと公園の狭間に停めた車で生活をする
いわゆるホームレスでした。
他のホームレスたちと親しげに接する彼でしたが
スーツで日がな一日読書をする姿は
どこか馴染む意思がないことを表明するかのよう。
自身の身の上についてもその場の流れに任せて嘘でごまかすため
ホームレスたちからは虚言癖があると陰で言われているのでした。
ガソリン代もいよいよ底をついてきた時どうしたものかと
思っていると怪しげな男が車に近付いてきます。
鼻や口元にピアスをした独特の雰囲気のその男。
彼は主人公に仕事を引き受けて欲しいと持ちかけるのです。
ホムンクルス
仕事というのは『トレパネーション』という頭蓋骨に穴を開ける
人体実験で報酬として70万円払うと。
一旦は断ったのですがその後主人公は
受け入れざるを得ない状況に立たされます。
こうしてトレパネーション手術をすることになった2人は
初めて互いの素性を明らかにします。
ピアスの男は伊藤学という22歳の医大生。
父親は大きな脳神経外科の病院を経営しているとのこと。
一方主人公は名越進、34歳。
2週間前からあの場所でカーホームレスをしている
とだけ伝えてそれ以前のことは話したがりません。
2人は伊藤の父親が買い与えたというマンションの部屋で
トレパネーション手術を行いました。
手術は麻酔をするため痛みはないものの
穴を開ける時はドリルを用いるというのです。
40分程度で終了した手術でしたが
名越は穴が開いた実感があまりないようでした。
伊藤によるとこの手術によって海外では
36%の人が第六感を開花させているとのこと。
トレパネーションによってなぜ第六感が働くようになるのか
確固たる裏付けはまだないようです。
ただ頭蓋骨に穴を開けることで頭蓋骨内の圧力が変化して
脳に大量の血液が流れるように。
そして赤ちゃんのように脳全体が活動している状態になると説明します。
手術翌日、心霊スポットなどに行っても何も感じない名越でしたが
超能力検査ではかすかに片鱗を予感させます。
5種類×5枚の計25枚のカードから
星マークだけを選ぶという直感型のゲーム。
左目だけでカードに集中すると成功率が上がるのでした。
そして伊藤と別れた帰り道名越は
異様な光景を目の当たりにすることになります。
突風に襲われて目をこすりながら左目だけで見た街中。
ある男は頭が半分に欠けていてまたある男は
ぺらんぺらんな紙のような姿をしていました。
さらに電話をするギャルの体は首や胸、腰、足などで輪切りに。
楽しげに会話をする彼女の腰元だけが
グルングルンと勢いよく回転しているのでした。
そこにあったのは普通の人たちに混じって
尋常ならざる者たちが闊歩する世界だったのです――。
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ホムンクルスのネタバレ!
伊藤が分析するには彼らは『ホムンクルス』であるらしいのです。
ホムンクルスには人造人間という意味のほかに
現代では「脳の中の小人」と言われる五感を使って
収集した情報が脳の中で記憶へと変化した姿を現しています。
その人の深層心理に沈んだ歪みたとえば罪悪感やコンプレックス
トラウマなどがそれらを象徴する化け物の姿=ホムンクルスとして
名越には見えるのではないかと・・・。
例えば名越が初めてホムンクルスを浄化したのが
ヤクザの組長だったのですが彼は幼い頃
友達の小指を過ってカマで切断してしまいました。
その罪悪感は彼の心で受け止めきれなくなり
「自分は人を傷つけてもいい人間なんだ」と
思い込むことによって事実を無意識に隠してしまったのです。
無意識に沈められた痛みは思い出すことはなくても消えることがなく
超合金ロボをまとった少年の姿として名越の目に映ったのでした。
名越は少年が自分の小指をしきりに傷つけていることから
組長の過去にカマと小指にまつわる‘何か’があるのではないかと推測。
自らも過去に犯した過ちを話すことで組長が忘れていた事実を思い出させ
彼のホムンクルスを解放させることに成功しました。
ホムンクルス
こんな風に人間の無意識に追いやられた痛みを引き出すことによって
名越はその後もホムンクルスたちを浄化させていきます。
母親によって抑圧された女子高生だったり
伊藤が隠していた彼本来の姿だったり・・・。
始めは疎ましいと思っていた自分の能力に名越は次第に憑りつかれていきます。
それと同時に自分自身も誰かに見て欲しいと切に願うようになっていきます。
名越自身も実はコンプレックスがありそれが抱えきれないくらいの
大きさに膨れ上がっていたのです。
その後ホムンクルスを見る能力を失ったことがきっかけで
彼はセルフトレパネーションにも手を出すようになります。
穴を開けるたびに狂っていく彼の精神。
最終巻では街行く人たちがみんな名越の顔として見えていました。
名越は全ての人と痛みを共有できるまでになっていたのです。
でも誰も彼の本当の姿は見てくれません。
「ここは天国か・・・? 地獄か?」
一年後、自分を見てくれる人を探して
疲れ果てていた名越の元へ伊藤がやってきます。
右目に眼帯をしたまま名越は問うのです。
「俺を見てくれるんだろ。そのために来たんだろう?」
擦り切れてしまった名越の精神はどこに向かってしまったのでしょうか。
人間の深層心理に憑りつかれてしまった男の結末とは――。
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ホムンクルスの感想は?
1巻からあまりに哲学的で理解するのに何度も読み返してしまいました。
長い旅路の果てには重く悲しい結末しか用意されていなく
読後にやりきれない気持ちを抱えて瞼を閉じたのは本当に久しぶりです。
複雑に入り組んだ世界観に惹かれたらその先も読まずにはいられなくなると思います。
頭蓋骨に穴を開ける『トレパネーション』は実際に行われている手術です。
ITAGという国際トレパネーション唱道会が啓蒙活動を行っていますし
実は人類最古の外科手術であるのだとか。
ただ本作のように第六感を芽生えさせるという目的ではなく
意識の覚醒を目的に行われているらしいのです。
ホムンクルス
頭蓋骨に穴を開けることによって子どもの時に戻ったような
幸福感やエネルギーが湧いてくると施術を受けた人たちは言うようです。
あのジョン・レノンやオノヨーコもトレパネーションに興味があったみたいですよ。
『ア・ホール・イン・ザ・ヘッド』という映画で
トレパネーションについてもっと詳しく描かれています。
興味がある方は一度観てみてはいかがでしょうか?
たとえ意識が覚醒して新しい世界が拓けるとしても
私は頭蓋骨に穴を開けたいとは思いません。
ただ実際に名越のような人がいるとしたら会ってみたいですね。
私自身が忘れてしまった無意識にどんな痛みが
眠っているのか知りたい気がするのです。
こんな考えはきっと名越からしたら身勝手でそれこそ人間のエゴなのでしょうね。
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